魔界動乱期
妖狐の手を掴み、ギドラスが飲み込まれるのをラウドが防いだのである。

【ラウド……。ヌシに言われなくても、恐怖に怯えた者を殺すのは興が冷めた】

妖狐の言うとおり、理解の範疇を越えた敵を目の前にしたギドラスはひきっつた顔つきをしていた。

「貴様ら……!勝負はおあずけだ!」

そしてギドラスはその場を飛び去った。

「ラウド!貴様を消し去らねばこの飢えは止まない!親父が‘最強種族’などと言う貴様を……!!」

ギドラスの狂気はラウドに対する恨みとなり、更なる暴走を始める。

【余計な事をするな。あの雷獣は今殺しておかねば……、ちっ!】

妖狐は言葉を飲み込んだ。
なぜなら、ギドラスを殺せなかったのはラウドの制止よりも、妖狐自身の躊躇の方が早かったからだ。
つまり妖狐が躊躇しなければ、ギドラスはここで始末出来たはずだった。

「妖狐、良かったよ、お前がヤツを殺さないで。お前はもう魔族を殺めるな」

【殺すまでもない腑抜けに成り下がったからだ】

「ふ、それがお前の優しさだ。私はその優しさを持つお前が好きだよ」

【ぬ、ヌシに好かれるために見逃したのではない…!も、もう去れ!】

ラウドは‘1魔の魔族として好ましい'という意味で言った事は妖狐にもわかっている。しかし妖狐は真っ赤になった顔を見られないように、ラウドに背を向けた。

「お、おい、妖狐……」

【軽々しく……】

自分の肩を掴んだラウドの手を、妖狐が振り向いて払いのけようと手を伸ばしラウドの手を握った。
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