魔界動乱期
「まあ……そうだな」

「じゃあアバルの件が終わったら顔を見せに来い。そうすりゃ、テメエの言いたい事は理解してやるよ」

「あ、ああ!そうだな。じゃあ、行くぜ」

ジードはディナスのエリアを飛び立った。
アバルへ旅立つ前に、ほんのわずかだが心の重りが軽くなった気がしていた。

「魔神の生まれ変わりがラッキーか。まったく……良い考えしてやがるぜ」

そしてジードが森の出口に着いたとき、そこにはニコとルークが待っていた。

「ルークさん、ニコ。どうして?」

ルークがニコの背中をポンッと叩くと、ニコが下を向きながら歩いてくる。

「ニコ……」

ニコにとって、アバルとの戦争は辛い記憶でしかない。
ジードグループの仲間、そして父親を失ったのだ。
ニコはアバルを心の底から憎んでいるだろう。
ジードはそう思っていた。
ゆえに、アバルヘ旅立つ事はニコには黙っていた。

「ジード……、黙って行こうなんざ水くせえじゃねえかよ」

「す、すまん……」

「ルークさんが俺に言ってくれたんだ。憎しみに生きる事は、死んでいった仲間達を裏切る生き方なんだって。自分の正義を貫き続ける事が、生き残ったヤツの義務なんだって。だからよ、俺はお前に負けないくらい成長して……ウルフ軍団を継ぐ男になるよ。そんだけ言いに来た。じゃあな」

「ニコ!俺もでけえ男になって帰ってくるからよ!土産話待ってろよ!」

二魔は互いに決意を込めて、背中を向け合った。
そしてジードは生まれて初めて、森の外へと歩き出す。
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