魔界動乱期
「さっきの女性の声？……聞こえないところでやれよな」

ジードは一瞬踏みとどまったが、振り払うようにしてその場を去った。
その後、街の片隅にある丘で夜を迎える。

「どうも俺はこういう高いところが好きみたいだな。……あの親子、何があったんだろう」

しばらく寝転がっていたジードだったが、ふと立ち上がり、丘を後にする。


その頃、オンタナの中心にそびえ立つ城の下で、なにやら市民が数魔騒ぎ立てていた。

「ドラガン一味に子供がさらわれたんです！それを追って、母親も一味の住み家へ……！お願いします！この事をバンジュウ様へ！お願いします！」

騒いでいる魔族は、さきほどの居住区の住民であった。
オンタナの西にある小さな街を根城とするドラガン一味。
彼等にさらわれたのが、ジードと出会った子供、ユンクだという。

「わかった。この事をバンジュウ様へお伝えしておく。だから帰りなさい」

「ほ、本当ですか？お願いします！私は居住区へ戻り、皆に伝えます！」

居住区の魔族が去っていったのを見て、その場にいた国軍兵はなにやらボソボソと話をしている。

「この事はバンジュウ様や小隊長達には伝えるな。ドラガンは強い。バンジュウ様達に何かあったら、明日に襲い来るダイフォン退治に支障が出る。一組の親子よりも五十万の市民の命が優先だ」

その話を聞く一魔の影。

「ふうん、なるほどね。いいね、その腐った感じ。それでこそ憎きアバルだ」

ジードである。
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