魔界動乱期
「マーシュもラウドの事を知ってるのかい?」

「お母さんはね、昔はいつも言ってたよ。ラウドみたいな魔族になりなさいって」

ジードは昔、ラウドに聞かされた話がある。
アバルというのは、ラウドの主君、故ギルシャスの教え子だったらしい。
そのため、アバルにはギルシャスの考えが強く根付いているという。
そして、照れながらこう言った。

‘アバルには、私の昔話がとても多いらしいんだ。そ、その……自慢ではないぞ。つまりだな、お前の父親は意外に有名なのだ。わかったらちゃんと教えた事をやりなさい’

自分の偉大さを息子に自慢する事は、どの父親でもすることだろう。
ジードがラウドに反発したときに話してくれた、数少ない‘偉大な父の話’。

「本当だったんだ……。でも、じゃあなぜアバルは親父を悪者に?‘国の魔力’ってやつなのか?」

「お父さんね、森の魔獣に殺されたんだ。だからお母さんは魔獣の森をなくしてほしいんだって。それからラウドの話をしなくなった」

「森の魔獣が!?お父さんは森に入った事があるのか?」

「ううん。セル山脈って所に行ったときに。そこで魔獣の森を抜けたヤツがいたんだって……。ねえ、お母さんもラウドを悪者と思ってないはずだよ。だから、お母さんを嫌いにならないで」

「ユンク、当たり前だろ。俺はマーシュを嫌いになんかならない。それに、その魔獣はきっとラウドとは関係ないはずだ。……もう寝る時間だろ?早く寝て明日に備えろよ」

「本当?よかった!じゃあおやすみ!」

ユンクはまだ七歳だとジードは聞いた。
そんな生まれて間もない子供が母親の事を必死に庇っている。
その光景はいつまでもジードの頭に残っていた。
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