魔界動乱期
翌朝―

「昨日、魔獣の森のお話をしてからジード様のご様子が少し……。もしかして、ジード様はラウド様、いえ、ラウド、に憧れてらっしゃるのかしら。でも、夫は森の魔獣に殺され……」

「お母さん、ジード兄ちゃん起こしてくるね」

「あ、ゆっくり寝かせて……行っちゃったわ。ユンクはジード様が大好きなのね」

ユンクが部屋に入ると、そこにジードの姿はなかった。
ふとユンクは、ベッドの上の置き手紙に気が付く。

「お母さん、ジード兄ちゃんいなかった。代わりにこんなのがあったよ」

‘ダイフォンはこの街を壊滅させるかもしれない。街から離れてくれ。それから、自分の目で見た真実を、信じてほしい……’

「真実?」

「ジード兄ちゃんはさ、多分ラウドの事が好きみたいだよ」

「やっぱり……!ジード様は、もうここには戻らないかも。ダイフォンを止めに防波堤に!?……ユンク、お母さんジード様に会いに行ってくるわ!」

「僕も行く!」

こうしてマーシュとユンクは家を飛び出た。
午前十時。
ダイフォンの上陸予定時刻まではまだ少しの余裕がある。

その頃防波堤では、バンジュウを中心とするアバル国軍第十八師団の兵士達がズラリと立ち並んでいた。

「風が強い!ダイフォンは予定よりも速く来るのかもしれん」

更にダイフォンに近い海の上空では……

「うおっ!すげえ風の力だ。あの遥か遠くに見えるのがダイフォンか。あの距離でこの力……。こりゃあ本当に壊滅するレベルだな」

‘小さな命を救えぬ者に、大きな命が救えるか!’

「バンジュウだっけ……。あいつ、止められるのかな。……でもあいつも敵だ。労せずしてアバル軍が減るんだ。こんな機会ねえぜ」
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