魔界動乱期
「残った我々の全ての力を注いでダイフォンの進行を遅めるぞ!少しでも時間を稼いで市民の多くを逃がすんだ!」

「御意!」

ここに残った五魔の魔族は、死ぬ覚悟をもってその場に残っていた。
しかし、一魔、また一魔とダイフォンの狂風の餌食となり、残ったバンジュウも……

「ぐあっ!」

荒れ狂うダイフォンの突風はバンジュウの全身を砕く程の衝撃を与え、そのまま後方の壁に叩き付けられた。

そしてダイフォンは、巨大な建物を紙切れのごとく吹き飛ばす。
そのとき、防波堤にいたのは彼等国軍だけではなかった。

「ユンク!まだ防波堤は崩れていない!あなたは防波堤に沿って街を出なさい!」

「やだ!お母さんも一緒に……」

「ユンク!!わかって。あなたが死ぬ事はね、お母さん、自分が死ぬ事より辛いの。お母さんを、死ぬより辛い目に合わせるつもり?」

号泣してその場を離れようとしなかったユンクは、この言葉を聞いてスクッと立ち上がり、涙を拭った。

「僕ね、徒競走では誰にも負けないくらい足が早いんだよ」

「そうよユンク。強く生きるのよ。伝説の魔族……ラウドみたいに」

七歳の子供、ユンクが一魔で生き抜く事を決めたその瞬間、防波堤が破壊される。

更に破壊された防波堤の破片が、マーシュとユンクに向かって飛んできたのだ。

「ユンク!!」

マーシュは咄嗟に、ユンクに覆い被さるようにして息子を庇った。

ダイフォンは、更なる猛威を奮う。
多くのオンタナ市民はまだ街の外に逃げきれていない。
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