魔界動乱期
その後ジードは、何も言わずに城を後にした。
城を出ると、そこには数えきれない程の魔族が埋め尽くされていた。

「ジード!」「ありがとう!」「英雄だ!」「ずっとここにいてくれ!」

「こりゃあ……大変だ。親父、歩いて出るのは難しそうだから……」

ジードは風を纏い、宙に浮く。
そして……

「またな!」

そのまま上空に消えていった。
ジードが降りたのはオンタナの出口。
来た方向とは逆の、首都アバルの方向にある出口である。

「ジード様」

不意に声の方向へジードは振り向く。

「マーシュ、ユンク……。よくわかったな」

「ジード様は、きっと何も言わずに去る方だと思いましたから」

「マーシュ、料理美味かったよ。あとユンク、強くなってお母さんを守ってあげろよ」

「うん!」

ジードは笑顔で二魔に背を向ける。

「ジード様!」

「なんだい?」

「本当は、私も思っています。ラウドという魔族は……今もなお、正義の魔族なのだと。今もどこかで、困っている魔族を助けているのだろうと。私は真実から、目をそらすのはもうやめます」

ジードはその言葉を聞いてニッコリと微笑んだ。


アバル城・王の間―

「ジードという魔族の噂を聞いたか、ヅェシテよ?ダイフォンを一魔で止める程の力を持っていると。どうやら首都勤務を目指しておるそうだ」

アバル王が、興味深そうにヅェシテへ言葉をかける。

「是非、会ってみたいものですなあ。では、他国の視察へ行ってきます」

王の間を出たヅェシテはボソリと呟く。

「力があり、正義の心を持った魔族か。まるで昔のアバル様のようだな。……邪魔者でしかないわ」

この一件で、ジードの名はアバル中に知れわたる。
当のジードは、自分が有名になっているとは露知らず、次の街へと向かってゆくのだった。
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