魔界動乱期
「ん?旅の者か?この道はセル山脈へと続いている。迂回した方が……、君は、もしかしてジードかい?ダイフォンからオンタナを守ったという」

「ああ、そうだけど……。なんで知ってんだ?」

ジードはきょとんとして、アバル兵へ質問した。

「ニュースや新聞で君の事がだいぶ取り沙汰されていたからな。ジードもセル山脈へ行くのかい?」

「ああ、首都アバルへ行くために通らなきゃいけないから」

「そうか……。ジード、セル山脈の事を知ってるかい?」

「いや……、あ、でもユンクが言ってたな。セル山脈に魔獣の森を抜けたヤツがいるみたいな事」

「どうした?」

二魔の会話に気付いた銀色の鎧の魔族が、最後尾まで下がってきた。

「銀色の鎧……てことはバンジュウと同じ、師団長か?」

「セレナ様、最近話題のジードですよ。彼もセル山脈へ行くようです」

セレナと呼ばれた魔族は、他のアバル兵と比べてかなり体格は小さい。
ジードを一瞥すると一言呟くように言った。

「小さいな」

「お前だって俺と大して変わらないじゃねえか!なんだか声も女みてえに甲高いしよ」

「あ、ジード……」

カチンときたジードの言葉を聞いたアバル兵は、気まずそうにセレナの様子をうかがう。
するとセレナは、顔を覆い隠すようにかぶっていた兜をスッと脱いだ。

「え?こいつ……」

ファサッとセレナの長い髪と、エルフ系の尖った耳が露になり、兜の下からは女性の顔……。
肌は日焼けして浅黒かったが、その顔立ちはとても美しいものだった。
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