魔界動乱期
「ああ、セル山脈にはな……」

その兵士の話によると、セル山脈には七十年程前から、魔獣の森出身のケルベロスという狂暴な魔獣が住み着いたという。
ケルベロスは頭が三つあり、体は大きい。
種族としてはウルフに分類され、ルーク軍団と二分する程の勢力を誇っていた。

しかし森の秩序を守るために集団を築いたルークと違い、残虐なケルベロスは欲望のままに殺戮を繰り返していた。
そしてルークはケルベロス排除に乗り出し、そこにラウドも加わるとケルベロスは戦わずして森を出ていった。

自分の住みやすい楽園を求めてケルベロスがやって来たのがこのセル山脈だったのだ。
ケルベロスに付き従う狂暴な魔獣達も移住したセル山脈は、アバルにおける危険地帯となったのである。

「そんなやつが?魔獣の森で集団を築いてたって事は、あのドラガンとかいうヤツの比じゃねえな。しかも、ルークさんとタメはる程の勢力を……」

「ケルベロス達は次々とセル山脈の付近の村を襲い、犠牲になった村は二十を越える」

「そんなに?なんで国軍は野放しにしておいたんだよ?」

「魔獣の森が存在しているからさ」

「……え?」

「魔獣の森の脅威に比べれば、セル山脈は二の次にするしかなかった」

ジードは少なからずショックを受けた。
自分達がただ存在しているだけで、その割りを喰って犠牲になっている者達がいた事に。
自分達はアバルに手をかける気は毛頭ないというのに。

「外から見れば、ケルベロスも俺たちも同じなのか……」
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