魔界動乱期
ジードの言葉を受けて、一魔のアバル兵が身をのりだした。

「我々は市民の恐怖を取り去るためにここに来た!もとより死をも覚悟して来ている!」

「だからさあ、あんたが死んだら、そこの女師団長だってただじゃ済まないってんだよ」

セレナが立ち上がろうとしたとき、ホルンが二魔の言い争いを止めに入る。

「まあまあ、じゃあ我々とジードは別々に行動しようじゃないか。」

しかしジードの発言の真意を問い質そうと、アバル兵も収まりがつかない。

「どういう意味だ?なんで我々の生死がセレナ様に関係あるのだ!?」

「ゲレオ、いいから……」

「お前、バカだな。この任務は極秘なんだろ?一魔死んじまったらアバルになんて報告すんだよ?結局命令を無視してセル山脈に乗り込んだのがバレる。で、女師団長も罰を受ける。誰でもわかるだろ?」

「あちゃあ……、ジード、それ、内緒なんだよ」

ホルンは小声で話し、顔を押さえる。

「ほ、本当なんですか、セレナ様……ホルン様……?もしそうなら、我々が、ついていきたいと嘆願した事は、セレナ様の首を絞めるような事だったのだ……」

セレナは凛とした顔をする。

「安心しろ。私には何も起きないし、お前達を死なせる事もしない」

「我々はなんのためにここへ!」
「セレナ様!引き返しましょう!」
「セレナ様!」

この収集のつかない状況の中、ジードが行儀悪く両足をドンッと机上に乗せた。
そしてうんざりしたような表情で口を開く。

「俺がケルベロス達を倒したら、残りの雑魚はどうすると思う?」

この突然の問い掛けに皆シーン、と黙りこむ。

「主力を倒したような魔族に襲いかかるような勇気はねえ。散り散りに逃げ去るさ。森の外に出て、この村にも来るかもな。そのとき、この村を守るのはケルゲリオ一魔じゃあ無理だ。あんた達がそこそこの力を持ってる事は俺にもわかる。だから、各々、それぞれの持ち場で……え、と……適……」

「適材適所」

ホルンがフォローする。

「そうそう、適材適所で全力で頑張れば、あんた達はもちろん、村民の犠牲も一魔も出さずに済む。逆に言えば、あんたらがいなきゃ、多少の犠牲が出ちまうのさ」
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