魔界動乱期
そう言って、ジードはその場を立ち上がり、部屋を去ろうとした。
そのとき、一魔のアバル兵がハッとしたように呟く。

「ジードは、セレナ様の状況を知って……自分一魔で森に入ろうと?口は悪いが、自分の危険を顧みずに……」

するとセレナが席を立ち、ジードの前に立つ。

「森の主力は三魔。私とホルンも入れば一対一だ。当然私がケルベロスとやる」

「いや、だからさ……」

ここに再びホルンが割って入る。

「オッケーオッケー、森には僕達三魔で入る、と。で、皆は森の外で待機だ。配置は明日指示する。さあ、皆今日は休むんだ。明日に備えて万全の体調で頼むよ!ケルゲリオさん、お願いします」

「あ、ああ。皆さん、お部屋を用意してありますので、どうぞ」

ケルゲリオに引き連れられ、アバル兵達は部屋を出ていった。

「こいつ……」

ジードはこのホルンの態度にいつからか違和感を感じていた。
残された三魔は席につく。

「さて、では一番下っ端の僕が議長を務めましょう。まず、ケルゲリオさんの書いた森の内部図を見てみると、少し迂回したこの位置から入るのが良い」

ホルンは地図の一部分を指差して説明する。

「で、力だけが取り柄の格下のサイクロプスを僕が相手します。で、ケルベロスはジード、セレナ様はサーベルタイガー。はい、以上」

「ホルン、何を言っている!ケルベロスは私が……」

「セレナ様!」

今まで柔らかく、すこしおちゃらけ口調だったホルンが真面目な顔をした。

「第八師団はこれ以上リーダーに何かあっては崩壊します。ここはジードを信じましょう」

第八師団は元師団長のゼロスと副師団長のコルトバを失ったばかりである。
ここで新しく師団長になったセレナは、万が一にもこの討伐に失敗するわけにはいかなかった。
その状況を今一度飲み込み、セレナは沈痛な面持ちで席を立った。

「仕方ない。ジードに任せる」

部屋の出口でセレナは立ち止まる。

「ジード……、私は君を勘違いしていたようだ。明日はよろしく頼む。それから……あ、ありがとう」
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