魔界動乱期
振り向き加減の横顔は、照れていたのか少し顔が赤らんでいた。
その横顔に見とれるジードを脇目に、ホルンも席を立つ。

「じゃあ、僕達も休みましょうか」

「ホルン、お前、策士だな」

「なんのこと?」

「どこからがお前の描いた絵だ?俺が合流することがわかってたのか?」

ホルンは作り笑顔を浮かべ、再び座った。

「バレてました?」

「初めて会う俺に、あんな踏み込んだ話をしたのは、俺の同情心にうったえかけるためだろ?まんまとお前の考えにハマっちまったがよ」

「ジードがあまりにもツンデレの‘ツン’しか見せないから少し焦ったけどね。やっぱり君は優しいんだね」

「う、うるせえな……」

「今の第八師団は心がバラバラでね。女に指揮されたくないゼロス派と、セレナ様を認めるセレナ派とで分かれてしまっている。ゼロス派の面々は下らないプライドを捨てられないのさ」

ゼロス派の魔族を納得させるためには、何か大きな戦功が必要になる。
セレナが、市民のためにセル山脈の魔獣を討伐すると言ったとき、ホルンはチャンスだと思った。

賞金を懸けるだけで、ゼロスが手を出せなかったセル山脈の魔獣を一掃出来れば、セレナを認めざるを得ない。

「だからこの討伐は万が一にも失敗出来ないんだ」

「俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ」

「そのときはそのときさ。僕が命を懸けてケルベロスを倒す」

「お前が死んだら結局同じだろ?」

「セル山脈の魔獣を一掃出来るのと出来ないのでは、セレナ様に対する刑罰は天と地さ。市民の絶対的な支持を受けられるからね」

ホルンもセレナ同様、市民の事を考える魔族だ。
しかしそれもまず、第八師団の心をひとつにしなければ叶わない。
ホルンは広い視野を持ち、頭も切れ、いざとなったら自分を犠牲にしてでもセレナを守る事を考える。
こういった魔族が側近にいることは、セレナにとって何よりも幸運だった。
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