魔界動乱期
「ゼロス様は利己的な方でね、自分の地位が第一だった。よくセレナ様とぶつかっていたよ。実力も市民の支持も圧倒的にセレナ様の方が上だったから、ゼロス様は良く思わなかったんだ。女である事を手に取り、よく批判していた。コルトバ様は内心ではセレナ様を支持していたから、立場上大変だったろうな」

「お前の思い通りに動かされたのは気に入らねえ」

「はは……すまなかったよ」

ホルンは悪びれて頬を掻く。

「でもまあ、嫌いじゃねえよ。明日は存分に利用されてやるさ」

「利用って……素直じゃないな。ジードがもっと素直なら僕もハラハラしないで済んだんだがね」

本来ならばジードは、思ったことを真っ直ぐに言葉にする性格だし、困った者がいれば考えるよりも先に手をさしのべるタイプだ。
しかし敵であるアバル軍に手助けをする事は、心の奥底では許容しきれない面もあった。
おおっぴらに感謝されてもジードの罪悪感が募るだけ。
ゆえにジードは、アバル兵の敵愾心(てきがいしん)を煽るような態度をとってしまったのである。

「じゃあ僕達も休もうか」

「なあ」

「なんだい?」

「アバル軍のリーダーは、皆お前みたいなヤツなのか?」

「ん?僕?ズル賢いって事?」

「い、いや。お前とか、セレナとか、バンジョウとか……」

「ああ、そういう事ね。つまりジードは、僕の事を素晴らしい魔族と思ってくれてる、と」

「それはどうでもいいんだよ!」

「ああ、はいはい。そうだな……、アバル軍は二五も師団があるから、全てのリーダーを知ってるわけじゃない。……が、基本、皆悪い魔族じゃないと思うよ」

ホルンはニッコリと微笑んだが、ジードにははっきりした答えがわからないでいた。

「基本、悪い魔族じゃない……か。どっちとも取れる言い方だな。アバルやヅェシテも基本、悪い魔族じゃないんだな?」

ホルンは少し黙り込む。
その姿は慎重に言葉を選んでいるようだった。

「良いか悪いか、てのは各々の価値観による。ジードは首都に行くんだろ?ならば自分の目で見て判断するといい。僕の意見で少しでも固定観念がついてしまったら、見えるものも見えなくなる」

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