魔界動乱期
姿かたちも違う。
言葉使いも違う。
しかしこのジードという魔族に、ラウドと同じ温かさを、ラウドの匂いをセレナは感じたのである。

「私は……、少しでもあの方に近付こうと、今までやってきたのだ……。だから、市民の事を第一に考えてきた!魔獣の森にはあの方がいるから……会って確めたかった!でも、もし本当に……、はっ!な、なんだ!?」

セレナが顔を上げると、ジードの顔が目の前にあった。
それに気付いたセレナは、びっくりして体をのけ反らせた。

「信じていいと思うぜ」

むせび泣くように言葉を綴るセレナの頭の上に、ジードが優しく手を置いた。

「ジード……」

しばらくの静寂のあと、セレナはジードに抱きついていた。
どことなくラウドと同じ雰囲気を持つジードの前で、セレナは初めて肩書きを忘れた。
もしかしたらセレナは、直感で何かを感じ取ったのかもしれない。

「セ、セレナ……?お前……、何も、着てないのか?」

体を覆い隠していた掛け布団を、セレナは体をのけ反らしたときに手を離していたのだ。
そんなことを忘れたセレナは、裸でジードに抱きついてしまっていた。

「ぬおぉっ!」

ボコォンッ!

瞬間、ジードの顔面は陥没する。

「て、てめぇ……俺は何も……ぶあっ!いてっ、いてえ!もう出てくから、おい!」

矢のようなパンチやキックが飛び乱れ、ジードは部屋の外へと逃げ去った。
部屋の中ではセレナが、掛け布団で体を隠しながらベッドの上に座り込んでいる。

「はあっ、はあっ、何で私はあんなはしたない事をしてしまったんだ。あ、明日はどんな顔をして会えばいいのか」

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