魔界動乱期
「はあっ、はあっ、目を開けているから目眩が起きるんだ」

ホルンは静かに目を閉じた。

「観念したか、グッグッグ」

サイクロプスはドズンッドズンッとゆっくり歩み寄る。
ホルンにピントを合わせ、警戒を怠る事もない。
ホルンはやや体がフラつく感覚をおぼえながらも、両足の感触に意識を集中する。

サイクロプスの武器は、鬼族特有の特殊能力、圧倒的なパワー、そして並の魔法程度なら弾き返してしまう程の強靭な肉体である。
瀕死のホルンがそれに対抗するには、自分の武器を信じるしかなかった。

「さっきよりも、多くの木々をヤツに……」

ホルンが魔力を全開すると、広範囲にわたる木々達がピクピクと動き出す。
魔法の使用は当然自らの体に負担をかける。
ホルンは激痛に耐えながら、最後の魔法を放った。

「むっ!?さっきとは比べ物にならぬ程の木々の刃!」

木々の刃が空を覆う。

「数に頼ったか、無駄な事を……!」

サイクロプスは再び音の衝撃を生み出した。マッハで伝わる衝撃の前に、全ての木々が的とは違う場所へとずらされる。
しかしそのとき……

「な、なぜ、俺に向かってくる!?」

的をずらされたはずの木々達は、その全てがサイクロプスへと向かって来る。
ホルンは前回の攻撃をしっかりと頭の中に入れていた。
平衡感覚を失った木々はどう動くのか。
それを考えた上で、最初からサイクロプスとは違う場所を的にしていたのだ。

ズドドドドドドドッ、とサイクロプスの体へ次々と刃が突き刺さる。

「うっ、ぐぅ……、こいつ、これも計算して……?」
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