魔界動乱期
ダークエルフの力を解放したセレナにはわかってしまったのだ。
ジードから漂う森の匂いを。
三百年経っても忘れたことのない、ラウドの匂いを。
半獣であるダークエルフは鼻が利く。
それゆえに昨夜の事を思い出すと、ジードがどこからやってきたのかがわかってしまったのだ。

セレナは怒りとともに、頭上にある巨大な火球をサーベルタイガーへと放とうとした。

「ま、待て!俺達がここに来た本当の理由を教えてやる!」

サーベルタイガーは何かに気付き、咄嗟にこう口にした。
本当の理由など何もないはずなのに。
‘それ’に気付いたサーベルタイガーは、セレナの意識を自分に向ける必要があった。

「本当の理由だと?どうせ下らん事に決まっている」

「そ、そうでもないぜ!今から話す事実をアバルに教えれば、魔獣の森とアバルの確執は確実に取り払われるはずだ!」

死にたくないためのでまかせだろう。
そうセレナは思ったが、もしかしたらラウドとのつながりを戻せる何かがあるかもしれない。
万にひとつの可能性を捨てきれず、セレナはサーベルタイガーの話を聞こうと判断した。

「聞こう」

「いや、ここに来た理由はな……」

サーベルタイガーがニヤリとほくそ笑んだそのとき、セレナの背後から強力な氷の魔法が放たれた。

「なっ!?うああっ!!」

セレナは咄嗟に魔力で防御したが、その魔法の前には魔力のみの防御など気休めに等しいものだった。
体全てが凍りつく前に、セレナは体内に熱を発生させて氷の侵食を防いだ。
しかし氷は溶かせても、数ヶ所に負ったひどい凍傷は治せない。
右肘はうまく曲げる事が出来ず、背中と左足の感覚はほとんど無かった。

「う……くっ!一体誰が……」

セレナが振り返ると、そこには三つ頭の魔獣が立っていたのだ。

「なぜケルベロスが!?ジード……ジードをどうした!?」

「俺達がここに来た本当の理由はなあ、ただ殺したいからだよ!ガッハッハ」

サーベルタイガーのせせら笑いが響き渡る。
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