魔界動乱期
ケルベロスが先程自ら放った炎の煙幕を凝視する。
そのとき、ケルベロスの背中にゾクリと寒いものが走った。

「どの女だよ?」

背後を振り向かなくてもわかる。
ケルベロスが牙を突き立てた先には、いると思ったセレナがいなかったからだ。
ケルベロスは自らの敗北を悟り、もう一度ジードに訊ねた。

「おいテメエ、魔獣の森の何なんだ?」

そのとき、ジードに抱えられていたセレナにもわずかに意識が戻っていた。

「俺は、ラウドの息子だ」

(ジードが……ラウド様の!?)

「息子がいたのか……どおりでな」

「ケルベロス、お前、ここの魔獣ども引き連れてアバルを出ろよ。全て追い出すのは面倒くせえ」

ジードはケルベロスに情けをかけた。

「とんだ甘ちゃんだぜ……。殺さなきゃ……殺されるんだぜ!!」

ケルベロスは背後のジードに向かって、己の武器である牙で最後の攻撃を繰り出す。

ズバッ!

ジードは一瞬にしてケルベロスの三つの首を断った。

「こいつ、殺されるためにわざと。お、そうだ!セレナは、ちゃんと息してるか?」

ジードはセレナの口元に耳を近付ける。
セレナの唇にジードの頬がわずかに触れた。

「息が荒い、あと顔がすげえ熱を帯びてる!早くケルゲリオの家で手当てしなきゃ!……あいつ、ホルンを見つけたかな」

(呼吸も、顔の熱も……お前のせいだ!)

セレナが気を失ったふりをしながら心の中でそんな事を考えていたとき、誰かがここへやってきた。

「おい、ジード!こいつの事だろ?ちゃんと役割果たしてたぜ」

「おお、サンキュー!リョーザ!」

そのとき、ホルンを背負ってきたのは、先程ジードに攻撃を加えたリョーザであった。
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