魔界動乱期
「うっ……」

かなりの採血をしたせいか、ジードも少し意識がぼやけてくる。

「輸血はここまでが限界ですね。だが、きっと大丈夫です。ジードさん、少し横になった方がいい」

「ああ、そうさせてもらうよ」

ジードが意識を朦朧とさせたのは輸血だけのせいではない。
魔神の魔力を抑えるために身にまとったあの白い魔力。
ジードにもどうやったかわかっていないあの魔力の使用が、相当な体力を消耗させていた。

「あとはしばらく様子を見ましょう」

ジードとセレナだけを寝かせ、皆部屋を出た。
しばらくした後、先に目を覚ましたのはセレナであった。

「う……ここは?……ジード。ジードが隣に?」

セレナはジードの腕にある針の刺し跡を見て、自分に輸血をしてくれたのだと気が付いた。
そしてセレナは、ジードがケルベロスに言った最後の言葉を思い出していた。

‘俺はラウドの息子だ’

「私の中に、ジードの血が……。いずれ、敵となる……」

セレナはジードの手を握り締めて泣き崩れた。
自分をケルベロスから救ってくれ、死の際から救ってくれ、‘第八師団長’という立場をも救ってくれたジード。

「ジードがいなければ私は……。一体どう返せば良いのだ、これだけの恩義を。敵としてなど見られるはずがないだろう!私に……ジードが殺せるものか……」

セレナはダークエルフの力を解放する。

「ジード……やっぱり、あの方の匂いがする」

そしてスッと元の状態に戻り、ジードにもたれながら涙を流し続ける。
しばらくすると、不意にジードがセレナの頭に手を置いた。

「ジード……?」

「セレナ……お前、泣いてばかりだな」

「な、泣いてなどいない!」

セレナはバッとジードの手をはねのけ、自分のベッドで背を向けて寝転がった。
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