魔界動乱期
(聞かれたか?私がジードの正体に気付いている事)

「セレナ、お前って本当に強かったんだな」

「な、何を言ってる。私など、何も出来ずにこの様だ。ジードがいなかったら死んでいた」

「お前が解放した魔力……あれはケルベロスよりも全然上だ。俺がいなかったら、きっとセレナは一魔でなんとかしたはずだぜ。だから、思わなくていいんだ」

「え?」

「恩を受けたとか、返さなければ、とか、余計な事は思わなくていいんだ。なぜなら……」

「ジ、ジード、やっぱりさっきの私の……」

「なぜなら、俺達は仲間なんだから」

「!!」

この言葉を聞いた瞬間、セレナの瞳からブワッと涙がとめどなく溢れだす。
ジードはわかっていた。
セレナの苦悩を。
仲間に恩義の貸し借りなどない。
仲間なら助けて助けられるのは当たり前の事だ。
だから何も気にする事はない、とジードはそう示唆したのである。

「ジード、私は……お前の敵なんだぞ……」

「敵じゃないよ。セレナもホルンも、バンジョウも。皆、守るべき大切な者達のために志を貫く立派な魔族だ。俺達と、何の違いもない」

ジードはここまでのアバルの魔族達との関わりを経て、自分の中で固執させていた考えを捨てた。
その固執は、恨みから来る誤ったもの。
仲間を殺したアバル軍は全てが敵だ、という狭い考えだ。

「自分の目で見て判断しないと、何が悪で何が正義かなんてわからないんだな。もしも俺がオンタナを見捨て、セレナ達を見捨てていたら、きっと俺が悪だ。それは世間が決めるのではなく、俺の中の正義がきっと許さない」

「ジード……」

「だからこれから会う魔族達を、俺は敵とは見ないよ。そうすれば、自分の行動に悔やむことはなくなる。きっと仲間達も、憎悪に振り回される俺がいたら止めるだろう。そして親父なら、絶対に憎悪に負ける事なんてない」

「ラウド様……の事?」

「そうだ」

ジードは瞳に光を宿して大きく頷いた。
ジードは敵とは見なしていないが、アバル軍は魔獣の森を敵視している。
その敵対するアバル軍に在籍するセレナに、自らの言葉で真実を告げた。

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