魔界動乱期
「知らない魔族のために、自分の命を危険に晒す事の出来る魔族が、今のアバルにどれだけいるか……。国ってもんはさ、大きくなっていくと権力に固執する者が増えるんだ。ジードがアバル軍に入れば、そんな流れを中からぶち破ってくれるかも、なんて期待してるよ」

ジードは少し微笑んだ。

「また俺を踊らせようとしてんのか?」

「え?い、いや、そういうわけじゃないよ」

「ここまできたら存分に踊らせてもらうぜ。最高の舞台でよ」

ジードはそう言って歩き出す。

「あ、ジード!」

するとホルンがジードを呼び止めた。

「セレナ様には……別れを言わずに行くのか?」

「もう十分話した。きっとセレナは大丈夫だよ。色々とな」

「そうか……。じゃあ、頑張れよ」

「ジード!今度はちゃんとゆっくり来いよな!」

「ああ」

ケルゲリオの目は少し涙ぐんでいる。
二魔はジードの姿が見えなくなるまで見送っていた。
セグルスツまでの道のりは長い。
標高六千メートルの山々が立ち並ぶセル山脈を越え、さらに砂漠を二日程歩く。
しかしケルベロスが山脈の麓にいたおかげで、アバルの魔族達はぐるっと回り道していかねばならなかった。
ジードは彼らの交流の道のりを新たに刻んだのだ。

ジードが再びセル山脈の麓の森に入ると、そこには一魔の魔族が立っていた。

「あ、お前……」

「別れも告げずに行くとは、薄情なヤツだな」

「セレナ!絶対安静だろ!」

そこにいたのはセレナであった。
上半身や腕、脚に包帯を巻かれたセレナが麓の入口で待っていたのである。

「こんな怪我、少し寝れば動けるようになる。ダークエルフの回復力をみくびるな」
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