魔界動乱期
「今は周りに部下もいない。アバルの鎧も着ていない。今の私は……ただのセレナだ。どこにでもいる、ただの女だ」

今までセレナは女性扱いされる事を激しく嫌悪していた。
強さに男女の区別など関係ない、と自らを鍛えてきた。

「ジード、お前のせいで今までの私が崩れっぱなしだ」

「俺の中のセレナは、強がりで泣き虫な女だよ。今までと違うのか?そのイメージは」

「そんなイメージを持ってるのはお前だけだ……」

セレナはジードの肩に顔をうずめて照れ臭そうに言った。

「行け」

「あん?」

「さっさとこの国を変えてこい!」

セレナは両手でドンっとジードを突き飛ばす。
そして涙を拭って笑顔を作った。

「それをしてから、存分に他愛のない話をしよう」

「そうだな」

ジードも笑顔を浮かべ、セレナに向けて親指を立てた。
そしてセル山脈へとジードは歩を進めてゆく。
セレナはいつまでもそこに佇んでいた。
静かな森に響くジードの足音が消えるまで。
しばらくしてセレナが森を出ると、そこにはホルンの姿があった。

「別れの挨拶は済んだんですか?」

「ホルン!いつからいた!?まさかずっと……!?」

決して見られたくはない姿を見られたかと、セレナは激しく動揺する。

「いやいや、さっきですよ」

その言葉を聞いたセレナはホッと胸を撫で下ろす。

「‘今の私はただのセレナだ’ていうあたりから」

ホルンはニンマリと悪戯な笑顔を作りながらそう言った。
セレナの顔がみるみるうちに真っ赤に染まってゆく。

「き、貴様……!頭を砕いて忘れさせてやるわ!」

「ぜ、絶対安静ですよ!僕もあなたも!」
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