魔界動乱期
門をくぐると大きな道が開けていて、他の街と同じように店が建ち並んでいる。
違うのは一般魔族用の個別販売ではなく、国軍用の大量販売が中心である事。

「リョーザに悪い事したな。でも俺は商魔目指すって事になってるから、まあちょうどよかったかな。それにしても、この通行証……。フォルツさんて、実はすげえ大金持ちだったりしてな」

大通りをしばらく歩いていると、前から何魔もの魔族に囲まれながら移動する、華やかな衣装に身を包んだ女性の姿が見えた。

「なんだありゃ?王女……てやつかな。ん?あの女から感じられる魔力、他のヤツと違う」

ジードは、相手の魔力から属性を判断できるくらいの感知能力を備えていたが、その女性から感じられる魔力は今まで出会ったどの魔族とも違っていた。
属性は当然攻撃能力を秘めているため、ピリッとした尖ったような魔力が少し混ざっている。
しかしその女性の魔力からはそういったものが一切感じられない。
かといって属性を持たない魔力とも違う。

「すっげえ……綺麗だな」

最初は、特異な魔力に注目して女性に意識を向けていたジードだったが、華やかな衣装すらも霞んでしまう程の美貌にいつからか見とれていた。
そしてジードとその一団がすれ違うとき、女性もまた、ジードを見つめていた。
数秒間、互いに見つめ合いながら通りすぎるとき。

「君、ジードだろ?」
「国軍の試験を受けに来たのか」
「本当に小さいな」

その一団の魔族達がジードに話しかけてきた。

「え?あ、ああ。それじゃあ!」

ジードはそそくさとその場を逃げるように立ち去る。

「苦手なんだよな、ああいうの。でもあの王女さん、なんだか心が閉じ込められたような目をしてたな。助けを呼んでるような……」
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