魔界動乱期
ヅェシテはジードに短く告げ、クルッと背を向けた。

「し、将軍、確か入軍試験はいつでも受け入れを……」

城兵の言葉を遮るようにヅェシテが振り返り睨み付けた。

「あ、し、失礼しました!」

その言葉を聞くと、ヅェシテは再び中へと姿を消す。

「おい!ヅェシテっつったか、お偉いさんよ!何も見ねえ内からお払い箱ってのはどういう事だよ!?」

「あ、ジード!口を慎め!」

乱暴にわめきたてるジードに、城兵が慌てて注意を促す。

「我が軍に礼儀を知らん者は必要ない」

ジードの異議申し立てをヅェシテが軽くいなしたそのとき、ジードの背後から魔族の足音がした。
その魔族を見た城兵は、ピーンと背筋を伸ばし、敬礼をする。

「相変わらずの堅物だなあ、ヅェシテは」

ジードが振り向くと、真っ黒な鎧に身を包んだ魔族がそこに立っていた。

「遠路遥々お疲れ様です!ガルバイル様!」

「ガルバイル?確か、暗軍のトップ……か?」

アバルの暗殺専門部隊、暗軍。
そのトップであり、ヅェシテと双璧を為す魔族ガルバイルがこの場所に現れたのである。

「よう、しばらくぶりだな、ジード」

この軽い感じ、その声は、確かに聞き覚えのあるものだった。
ジードは記憶を辿りながらガルバイルの顔を見る。

「あ!ふ……、フォルツさん!!」

ガルバイルの正体は、ジードがアバルで最初に会った魔族、フォルツだったのだ。

「どおりでこれ、効果があるはずだ」

ジードはフォルツに貰った通行証を取り出してまじまじと見つめる。

「ヅェシテよ。ジードは今、アバルで最も有名な魔族と言っても過言ではない。国民の支持もあるだろう。国軍に入れない理由がどこにある?」
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