魔界動乱期
その後ガルバイルはジードに城内を案内する。
ジードは、地下に続く階段の前で立ち止まった。

「ここは?下に魔族が沢山いるようだけど」

「下は牢獄さ。お前には関係のない場所だ。最後は書庫に案内するぞ。アバルの書庫は魔界一だ。なんせ学者の都と言われてるくらいだからな」

ガルバイルの言った通り、書庫はとても広かった。
その中には、アバルにしかないものも数多いという。

「城内はな、首都勤務の者でも限られた魔族しか入れない。暗軍のお前はもちろんフリーパスだ」

ガルバイルはジードに異常なくらい親切だ。
ジードが何かをやろうとしている事がわかっていながら、それを手助けしているような節さえ感じる程に。

もしもジードがアバルの秘密を握ったまま姿を眩ましたら、ジードを暗軍に入れたガルバイルはその責を問われるのだろうか。
ジードはそんな事を考えていた。
その後五日間、ガルバイルはジードにつきっきりでアバルの事を教えた。
軍の規律、師団形成、礼儀作法に至るまで。

ガルバイルが砂漠の街へと戻った後、ジードは早速書庫へと向かった。

「ええと、ここを曲がっていくんだっけな……。広くて迷子になりそうだぜ」

時を同じくしてレンもまた、城内を移動していた。

「毎日が苦痛。なんであたしはここにいるんだろう。書物を読んでる時は、本が話しかけてくれるみたいな感覚になるから好きなんだ。……ただの現実逃避ね」

レンが突き当たりの分かれ道を右へ曲がろうとすると、反対側からジードが歩いてくる。
二魔は互いの存在に気付き、会釈をした。

「あ……ども」

「ああ、レン……だっけ」

その後二魔は同じ方向へ、微妙な距離を空けて無言で歩く。

「ジードだよね?ど、どこに行くの?」

「書庫だけど……辿り着けるかどうかっていう最中」

ぎこちない空気の中、ジードの言葉にレンがクスッと笑う。

「あ、ごめんね。君が面白い事言うから。あたしも書庫に行くの。一緒に行こ」

「あ……ども」

その笑顔に、ジードは見とれてしまった。
最初に見たときは心を閉ざしているかのような暗い顔をしていたレンが、今は花が咲いたような笑顔を見せている。
< 366 / 432 >

この作品をシェア

pagetop