魔界動乱期
「や、やめろ!」

エリアを離れようとする炎駒を、ラウドが慌てて止める。

「わ、わかった……。まずは、魔獣を殺さないように……説得してこよう」

ラウドはチラッと炎駒の顔色を伺う。
炎駒はしばらく黙り、口を開いた。

「まあ、まずはそれでよし!」

ラウドはひとまず胸を撫で下ろし、しかし重い足取りで妖狐のエリアへと向かった。

「とてもあいつがかつての最強魔族やら、ギルシャスの英雄やらには思えねえな……。さてジード、これで一歩も前進しなかったら、もう俺は知らんぞ」

物事をストレートに物怖じなく伝える炎駒だが、熱情的で優しさに溢れる魔族である。
ジードとの約束もあるが、これはきっとラウドのためにも、そして妖狐のためにもプラスになると考えていた。
事情はわからないが、ラウドと妖狐の間には深い絆のようなものがある。
そして、同じくらい深い溝もある。
その溝は、時間が経てば経つ程に凝り固まり、越えられなくなってしまうものだ。
しかし炎駒は、こうも考えていた。

「溝ってのはよ、時間が経てば、それを越えられなくなるんじゃねえ。越えるきっかけをなくしちまうだけなんだよ。きっかけさえあれば、案外簡単に取り払われるもんだぜ」
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