魔界動乱期
【我があの雷獣に情けをかけたせいで、ヌシの愛する者が殺されたのだぞ】

「あれは仕方がなかった!お前が悪いんじゃない。もうあのときの呪縛は解いていいんだ。辛い過去をひきずらなくていいんだよ」

ラウドは妖狐の数百年を想い、少し感情的になって言葉を綴った。

【呪縛ではない。我の決め事だ。それに煩わしい‘感情’などというものは、とうに、捨て去った。あのとき、あの場所でな】

二魔の脳裏には、かつてリマにおいて全身を朱に染めた妖狐の姿が、妖狐の暴走を止めようと単身リマにやってきて‘いつまでも待っているぞ’と言ったラウドの姿が互いに浮かんでいた。

「お前は十分禊いだろう?私はそんな事をしてほしくはなかったが、お前のこの数百年は痛い程わかる」

【わかったような事を言うな】

「わかるさ。優しいお前が、魔獣に手をかける度に心を痛めているのだろう?感じるだろう、心の痛みを!?」

妖狐はラウドの言葉を返さずに、黙ってラウドを見つめた。

「お前は感情を捨て去ったんじゃない。感情を奥にしまい込んだだけだ!」

【そんな事は……ない】

ラウドの情熱的な呼び掛けに、妖狐の心は少し動揺していた。
いや、それ以前に妖狐は思い出していたのだ。
ラウドに対する自分の感情を。
ジードの手によって。
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