魔界動乱期
【ここは魔獣の森。弱肉強食の森ゆえ、殺さなければ自分が殺されてしまう。我の行動はヌシに左右されるものではない】

妖狐は心にもない言葉を、ラウドを突き放すような言葉を言ってしまった事に心を痛めた。
ジードの前では驚くほど素直になれたが、やはりラウドの前では妖狐は妖狐のままであったのだ。

「もう止めるんだ妖狐」

【聞こえなかったか?殺さなければ……】

「私がお前を守る!」

衝動的に言った言葉であろう。
そう口走った後、ラウドはハッとしてブツブツと何かを呟いている。
しかしその言葉を受けた妖狐は驚いたように目を見開き、しばらく言葉を失った。

「い、いや、今の言葉は、そういう意味ではなく……あ、そういう意味とは、その……そんな意味ではなくだな」

【わかった】

「え?」

妖狐は下を向いて返事をした。
ラウドには見えないように下を向いて。
なぜなら妖狐の表情は、禁断のエリアの主らしからぬ顔をしていたからだ。
冷たく妖しく、近付く魔族に恐怖を植え付けるその笑みではなく、沸き上がってくる温もりをそのまま受け入れるような柔らかい微笑み。

【我は、戦う事をやめる】

「ほ、本当だな!?」

【何度も言わせるでない】

ラウドは妖狐の言葉に意気揚々として高台に戻った。
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