魔界動乱期
程なくして妖狐がエリアへと戻ってくる。

【我は食が細いゆえ、これはヌシが食らえ。……赤子とは不憫だな。狩りも出来ん】

妖狐の手には数匹の魔魚が持たれていた。
そさてその魔魚を赤子の前に無造作に放り投げる。
すると赤子は、無我夢中でその魔魚をむさぼり始めた。

【この魚も必死に生きていたのだ。本来ならば何もしないヌシには食らう資格はない】

妖狐の言葉を、キョトンとしながら赤子が見つめる。
そして空腹を満たした赤子は妖狐の膝の上に移動して、スヤスヤと眠ってしまった。

【む……。その無邪気さがヌシの武器か。なるほど、ヌシも生きるために本能を剥き出しにしているというわけか】

妖狐の赤子を見る目は、最初とは明らかに違っていた。
妖狐を恐れず、傍若無人の振る舞いをするこの小さな侵入者を、いつしか優しい目で見守っている自分に、妖狐は少し戸惑う。

【悪くはないがな】

次の日も、またその次の日も、妖狐は赤子のために食糧を捕ってきた。
それが最早日課ともなったある日。

「はあ、はあ、やべえな……。狩りの最中に仲間とはぐれちまった。夢中になって探し回ったが、ここは……」
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