魔界動乱期
森の霊峰、イグニの巣窟―

イグニは古来より‘空の覇者’と呼ばれるほど強い種族である。
集団の数は五百魔ほどで、ウルフの三千魔には遠く及ばない。
しかし、一魔一魔の平均戦力は高く、魔獣の森でもウルフ軍団と双璧を為す最強集団との呼び声も高い。
さらに魔界最古参の魔族であるイグニの長、ゾイドの影響力は強く、森にもゾイドに傾倒している集団は数多い。


「ゾイド様、やはりユニコーンは我が種族の子供を守るため、自らが身代わりとなりディナスの攻撃を全て受け、瀕死の状態で捕らわれているようです」

一魔のイグニが、族長ゾイドに報告をする。
イグニは鷲を巨大化させたような種族で、全長五メートル程の巨大な鳥獣である。

「そうか。親交の深いモノケロウスが捕らわれただけでなく、その理由が我が種族の子を守るためとはな。そうなれば我々の取る行動はひとつだ。……超燕(ちょうえん)部隊副長・セラトよ」

超燕部隊とは、選抜された三十魔で構成されるイグニの精鋭部隊である。

「はっ!セラトここに」

「すぐに戦闘準備を。それから、親交種族に協力を仰げ」

「かしこまりました!」

そのとき、入口の方で騒がしい物音がした。

「何の用だ!」「ここから先はゾイド様の……、あ、貴様!」「侵入者だ!止めろ!」

そしてその‘侵入者’は、神速とも言えるスピードでゾイドの前に現れた。

「じいさんよ、ディナスの野郎は、そろそろ俺もおしおきを考えてたところだ」

その姿を見て、ゾイドはフッと微笑む。

「目上の者には敬語を使え。……銀狼、ルークよ」

現れたのはもうひとつの最強集団、ウルフのボス・ルークであった。
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