魔界動乱期
妖狐はエリアを離れ、日課となっている食糧探しへと向かう。
あの一件以来妖狐は、感情を面に出すことはなかったものの、ますます穏やかなオーラを纏っている。
それには大きな理由があった。

‘妖狐よ、その……。私のその衣服はお前にやる。昔、ギルシャスの呉服屋に作らせたものだ。懐の裏生地を見て、私との約束を思い出せよ’

妖狐が裏生地を見ると、そこには文字が記載されてある。

‘ラウド’

【着心地は悪くない……】

しかし、平穏は長くは続かなかった。

「妖狐だけは許さん!あいつは手を出さないんだ。あいつの苦しむ事をしてやる。そういえばヤツからは少し離れていたが、常に……。げへへ、臭いを消せばバレるわけねえ。どこぞの魔獣に狩られたと思うはずだ」

そんなハイエナの怨念を露知らず、魚を数匹手に持ち、妖狐は戻ってくる。

【む、赤子はどこへ行った…?】

しばらくして、やや離れた木の下に、血だらけの‘何か'が横たわっている事に、妖狐は気が付いた。

【まさか…】

それは首のない、胴体だけのホワイトベアの赤子。
少し強めの風が吹くと、木の上からボトッと何かが落ちてきた。

【……!?赤子の…頭……】

ザワッと、妖狐の全身の毛が逆立つ。

【臭いは消したつもりだろうが……】
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