魔界動乱期
「ねえ、ゾラって何者?」

「ゾラ?誰だそれ」

「ガルバイルさんも知らないの?あたしがここに来た時から城にいて、いつもヅェシテ将軍に付き従ってたわ。表には出してないけど、なんだか……悪意の塊。狂気に身を染めてるって感じ。すごく……怖い」

「狂気に身を?そんなヤツを側に置いて、何を考えてやがるんだ、ヅェシテは……」

しばらく考え込んでいたガルバイルは、ふとレンに問い掛ける。

「そのゾラってヤツ、いつも兜とか、バンダナとか……額を隠すような何かをしてるか?」

「してる。それがどうかしたの?」

一瞬ガルバイルは険しい表情を見せるが、すぐに優しい顔付きに変わった。

「レン」

「はい?」

「アバル様を恨まないでくれ……」

レンはこの言葉に、沸き上がる怒りを抑え込み、グッと唇を噛み締めた。

「なんで今更そんな事を……。そんなの、無理に決まってるじゃない!ガルバイルさん、何を考えてるかわからないわ!」

「レン……」

そしてレンはそのまま書庫のドアを開け、走り去って行ってしまった。
レンの部屋前で監視をしているアバル兵は、泣きながら戻ってくるレンを見ると、優しい口調で声をかける。

「レンさん、どうしたんだ?」

「なんでもない!」

レンはゾーマ以外にも回復系の魔法や、見せてはいないが高度な結界術式などの防御系属性を備えている。
そのため怪我をしたアバル兵の介護をすることも多く、第一師団の魔族達はレンの事を好意的にみている者がほとんどだった。
それもそのはずで、怪我の介護に関してはレン自ら進んで行っているからである。
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