魔界動乱期
「ジード!わかった。なんとかするわ」

レンは城内においては見張りなしで移動を許されている。
しかし深夜の移動は基本的にはNGだ。
レンの部屋の見張りは、ヅェシテの命令で常に入れ替わっており、同じ魔族が連続でつくことはない。
それは多くのアバル兵が、レンに対して好意的な、そして同情的な感情を持ち合わせているからだ。
情が規律を乱す事を、ヅェシテはわかっている。

「今の見張りは……、コルト!?なんで小隊長が!?」

コルトとは、平均年齢二百歳を越えるアバル軍において一際若い小隊長である。
この二十年で最も多くの戦功を上げ、小隊長に抜擢された若き天才魔族なのだ。
レンは何度かコルトと会話した事がある。

「レンちゃん?どうかした?」

「珍しい、ていうか初めてだわ。小隊長が見張りにつくなんて」

「ああ、ガルバイル様の命令でね。僕はさ、将来暗軍に入りたいから、ガルバイル様の言うことは聞いておかないとね。暗軍は規律ないし自由でいいよね」

「あのさ……あたし、書庫に行きたいんだけどいいかな?髪飾り忘れちゃったみたいなの」

普通なら見張り兵の交替時に、そこを抜ける兵が代わりに書庫へ行く。

「ああ、どうぞ」

「すぐに戻ってくるから」

コルトは特に気にする事もなく、レンの移動を許した。
実力では上位師団長をも凌ぐコルトだが、規律に対する緩慢さが祟り、小隊長止まりなのである。

「見張りがコルトでラッキーだったわ。部屋を出るための作戦を色々考えてたけど、時間の無駄だったわね」
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