魔界動乱期
「くおっ!」

セレナは左目から発する炎の魔法を敷き詰めて氷を溶かし、地面へ着地した。
しかし息をつく間もなく、エドガーの極細に凝縮された氷の閃光がセレナの右肩を貫いた。

「あぐぅっ!」

そこから始まる氷の浸食を、またもや炎を体内から噴出させて防ぐセレナ。
一瞬流れ出てすぐに凍り付いた血も、セレナの炎で蒸発する。

「くっくっく……。貴様に殺されるとは、暗軍も頼りにならんな」

「暗軍を倒したのは、私だけの力ではない」

右肩を押さえながら、セレナが呟いた。

「何?では貴様に力添えをした者がいるのか?誰だそれは?誰が暗軍を倒した?」

「暗軍を倒したのは私一魔だ」

「……何を。くっ、殺される間際になって頭でも狂ったか。おとなしく死ね!」

エドガーが巨大な炎を発生させようとしたとき、セレナの魔力が爆発的に膨れ上がった。

「なんだと!?貴様、何を……な、なんだ……その目は……?」

セレナの目は黒く染まっている。
しかしエドガーが驚いたのは、その黒き瞳が右目にも宿っていたからだ。

「両目ともダークエルフの力が開眼するなど聞いたことがないぞ!」

氷が溶け、再び右肩から流れ落ちる血を見ながら、セレナは口を開く。

「私の中に流れるこの血……。私の物ではないこの血が力をくれた。根拠はないが、私はそう信じている。あいつは言ってくれた‘運命を変えてやる’と。いつでもジードは……私の側にいてくれるのだ!」
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