魔界動乱期
エドガーは自分の身の回りで起きている異変にはまだ気付いていない。
セレナの体中の血管が浮き出て、やがてそこからブシュッと血が吹き出す。

「ぐっ……ジード、ホルン、力を……貸して!」

ブァッとセレナの両腕が閉じられ、目の前でクロスした。
その瞬間、砕かれた黒球の破片が集まり、エドガーを覆うように形を成す。
そして黒球の中で、稲妻が瞬く間に何百もの往復を繰り返した。

「ギャアアァァァァ!!」

そしてエドガーは全ての稲妻をその身に受け、黒球が消えたときには黒焦げになり立ち尽くすエドガーの姿が残った。
一度弾かれた魔法を強引に元に戻す未知の領域。
ゆえにエドガーは無警戒であった。
セレナは、無限に広がる魔法の可能性を信じて、実行したのだ。
全ての力を使い果たしたセレナは倒れ込み、意識を失いかける。

しかし、ギシギシ…という何かの音を感じ、辛うじて意識を保った。

「ここを離れなければ……。きっとアバル軍が入ってくる。……え?」

セレナは膝に力を入れ立ち上がり、ふと音の方向に目をやると、その光景に言葉を失った。

「エ…ドガー……!」

エドガーは黒焦げのままだ。
しかし絶命したと思われたエドガーが、少しづつセレナに近づいているのである。
セレナには魔法を放つ力は残されていない。
それどころか、剣をひと振りする力すらも皆無であった。
それでもセレナは両手で剣を持ち、腰の位置に据えて身構える。

「私にはもう、剣を持って倒れこむ力しか残されていない。そのまま近付いてこい……」

エドガーがあと僅かで射程距離に入ろうとしたとき、セレナの予想外の出来事が起きる。
エドガーの腕が通常では考えられないほど、伸びてきたのだ。
さらにその伸縮自在の腕は槍状に変化を遂げ、セレナの首筋に狙いをつける。

「よけられない!」
< 410 / 432 >

この作品をシェア

pagetop