魔界動乱期
「では乗って下さい」

索冥はそう言うと、ボボボッと大きな雲を生み出した。
最初に雲に乗ったのは好奇心の強いレン。

「わあっ、フカフカ。ベッドみたいよジード」

そしてフラフラとジードが雲に足をかけると、レンが手を伸ばす。

「つかまって」

「……あ、ああ」

照れ臭かったのかジードは一瞬躊躇したが、しっかりとレンの手を握って雲に乗った。

「はは、手、つないじゃったね」

「バッ、別にそんな意味じゃねえだろ!」

レンはジードに会ってすぐに、恋愛感情に近い想いを抱いた。
それはジードがロイドと同じく、温かくて他の魔族にはない魅力に満ちていたからであった。
しかし仲間が捕らわれている身で、自分だけ浮き足だった感情を持つ事になんとなく罪意識を感じていたため、その想いを表に出すことはなかったのである。
仲間とともに救いだされた今は、その気持ちを少しづつ前に出そうとしている。

しかしレンはジードの事を何も知らない。
アバルを出てからは、ジードは何も語らずにひたすら飛び続けた。
レンも、回復のサポートに努め、会話らしい会話はなかったのである。
飛行中、レンには気になる事があった。

「ね、ねえジード?」

「……ん?なんだい?」

ジードは眠気眼で半分目を瞑ったまま答えた。

「あのさ、飛行中にたまに念交信種を噛んで、そのたびにため息ついてたじゃない?それって……、誰かと連絡とれなかったりっていうこと……?」

ジードはその質問に沈黙を保つ。

「あ、ごめん!ごめんね。言いたくなかったらいいの」

「……ん。あれは……セレ…ナ」

「え……?」

ジードが沈黙していたのは答えたくなかったわけではなく、ほぼ寝ていたためであった。
しかし、最後にジードが言った女性と思われる名前を聞いたレンは、ショックを隠しきれない様子でジードの寝顔を見つめていた。
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