魔界動乱期

その魔族を見たゾーマ達は皆、緊張の面持ちを隠せないでいた。
さらにジードでさえも、その底知れぬ魔力と、全てを包み込むような情愛の念を感じて、ややかしこまった顔付きをする。

「あの……もしかして、あんたが星牙さん？」

「ジード！‘あんた’って、失礼でしょ！」

「はっはっは、いいんですよ、美しいお嬢さん」

「え！？美しい？……そんな事ないってば、もう」

「これ！レンも失礼じゃぞ！」

「あ、すみません……」

ジードが訊ねたとおり、その魔族はフロティアの王、黒麒麟の星牙であった。
星牙は、通常の麒麟と同じく体毛は黄色いが、背中の毛は黒く覆われている。
更に、炎駒や索冥、他の麒麟が一本の角を生やしているのに対して、星牙は二本の角を生やしていた。

「はじめまして。私がこの国を任されております、星牙です。まずは索冥が約束したとおり、食事をとってください。アバルから飛び続けてお腹が空いたでしょう」

その言葉にジードが飛び上がっておおはしゃぎする。

「話わかるね！腹減って仕方なかったんだよ！」

「ジ、ジード殿！」

「はっはっは、ゼロルドさんでしたかな？ジード君くらい喜んでくれた方がこちらとしても御馳走のし甲斐があるというもの。皆さんもどうかかしこまらずに、食事を楽しんで下さい」

「は、はあ……では、お言葉に甘えて」

そして皆席に着くと、ズラリと大量の料理が運び込まれてくる。
ただでさえ大食漢のジードは、この数日の空腹を一気に満たすべく、皆が呆れるくらいの量を平らげていった。

「気持ちの良い食べっぷりだ。ジード君、まだまだ料理はある。それこそここの食材を無くしてしまうくらい食べてくれ」

「まらまら食べるろ！」

「ジード！口に入れたまましゃべらないの！」