魔界動乱期
三百年前、フロティアは魔界で最も小さなゼモルだった。
魔口は麒麟が四十二魔。
この、一見吹けば飛ぶと思われる小さなゼモルはもう数十年、変わらない領土で存在し続けていた。

「炎駒!またカメリアの軍が攻めてきたぞ!」

仲間の声に、寝転がっていた炎駒が起き上がる。

「またか。ちょっと灸を据えてやるさ」

そこへスッと、全身の体毛が空色の麒麟が炎駒の前に出た。

「ダメだよ。炎駒はたまにやり過ぎるからね。僕が行こう。彼らも話し合えばわかってくれるさ」

「兄貴……、ヤツらはちょっとこらしめるぐらいが丁度良いんだぜ」

「星牙も言ってるだろ?争いで解決すれば更なる争いを生むってさ」

炎駒と水黎は兄弟であり、幼い頃に星牙と出会って行動を共にしている。
やや年の離れた星牙を、二魔は兄のように慕っていた。
この頃、フロティアの回りには四十ゼモル程の領土を持つ国が三つ巴の争いをしていた。
その真ん中に位置するフロティアは、三国の争いの飛び火を度々受けていたのである。
あるときは大軍の通り道に、あるときは戦場と化し、フロティアの大地はそのたびに枯れていった。
自然を好み争いを嫌う麒麟は、自国の地が荒れ果てる事を抑えるために、他ゼモルが侵入しては追い払うという行為が日常化している。
その役目は主に炎駒が担っているが、日に日に激化するゼモル同士の戦争に、水黎は炎駒の荷を軽くしようと考えていた。

「君達!ここを通るのはもうやめてくれないかな。草木が悲しむ姿がわかるだろう?自然も生きてるんだよ?」

「またこいつらか!麒麟が来たら戦うなとカメリア様がおっしゃっていたが、たった一魔に怯む事はねえ!」

カメリア兵が水黎の言葉を無視してなだれ込むと、ザザァと波の音が聞こえてくる。

「な、なんだよ?周りに海はねえってのに……、な!?なんだありゃ!」
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