魔界動乱期
水黎の背後には、視界を覆う程の大海原が広がっていた。

「こ、こいつ……四麒麟ではないはずなのに!こ、これが麒麟……!?」

「海を見たら落ち着くだろ?戦争なんてやめてさ、皆仲良く暮らせばいいじゃない」

この当時から四麒麟の名は有名だったが、水黎は無名に近い。
彼は特に争いを好まず、表に出る事はほとんどなかったからである。
しかし水黎は四麒麟に匹敵する程の力を秘めている。
その圧倒的な魔力差を見せつけられたカメリア軍は、すごすごと引き下がっていった。

「炎駒、見たかい?彼らもわかってくれたようだよ」

「そ、そうか?今のは兄貴の魔力にビビっただけだと思うぜ」

「また彼らが来たら僕が行く。きっと話し続ければわかってくれるさ。彼らは敵じゃない。そんな魔族を相手にするのは苦しいだろう?」

「な、何言ってんだ!別にヤツらを相手にするのはどうってことねえよ」

「ふっ、皆知ってるよ。炎駒の優しさをさ」

争いを好まない麒麟の性質は皆わかっている。
それゆえ炎駒は、侵入者の追い払い役を自らかって出たのだ。
あくまでもクールに、敢えて気だるそうに日常の作業でもこなすかのように振る舞った。

「覚えてるだろう?四麒麟と僕のたった五魔で、この国を興したときの星牙の言葉を……」


‘魔界に平和の国を造る。誰も考えもしない事だが、ならば私達は魔界のフロティア(開拓者)になろうじゃないか’


「ああ、覚えてるぜ」

「平和ってさ、ただ争いを避けてるだけじゃダメなんだ。戦って勝ち取る平和もある。炎駒の優しさがそれを皆に教えてくれたんだよ?だから追い払う役目を僕が名乗り出た」

「星牙は、なんて言ってるんだ?」

「任せた、て。自分にはもっと大きな役割があるって」

「大きな役割?」

「この三国の戦争をやめさせるために、一魔で各国の王を説得しに行ったよ」
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