魔界動乱期
倒れているディナスのもとに、ゆっくりと妖狐が近寄る。

「ぐっ……、妖狐、俺をやるなら今しかないぞ」

【ふふ、その気は失せた。我の二千年以上の歩みの中で、名前を覚える程興味を持った魔族はほとんど存在せぬ。……まさか今日、そこに二魔の魔族が名を連ねるとはな】

「それまではラウドくらいだったってことかよ」

今のディナスには、ラウドを殺すという意志は薄れている。
それどころか、それまで自分を衝き動かしていたアバルに対する憎悪さえも。
実際は、ディナスを衝き動かしていたものは‘怒り’であった。
ディナスに吸収された魔族達の細胞レベルの怒り。
その内なる怒りがアバルに対する怒りを膨れ上がらせ、さも自分がアバルに対する憎悪を募らせていると思い込んでいたのだ。

「ボス!大丈夫ですか!?」

ジードはヨロヨロと立ち上がり、キッとラルーを睨み付けた。

「ひっ!」

つい気圧されて尻餅をつくラルー。

「ぐ……ら、ラルー……」

「ボス……?」

「ちっ、タフなやろうだ……」

ディナスもなんとか立ち上がり、ジードに背を向けフラフラと歩いてゆく。

「勝負はおあずけだ」

その様子を確認したのか、ジードは再び前のめりに倒れこんだ。

「ボス!」

しばらくすると、そこへラウドが到着する。
倒れているジードを遠目から見つけたラウドは、回りに目もくれずジードのもとへ走り寄った。
< 86 / 432 >

この作品をシェア

pagetop