魔界動乱期
「信じられんが、お前がジードを助けてくれたようだな」

ラウドは勘違いをしていた。
ディナスを追い払ったのは妖狐だ、と。
ジードから放たれた禍々しい魔力は、妖狐のそれと似つかわしいものだったからだ。

【数百年ぶりの会話だな。ヌシがこの森に来て百年。一度も我の前に姿を現さなかったからな】

ラウドはその言葉を聞き、変わらない妖狐の口振りに少しの安堵と、申し訳なさを感じた。

「お前が生きている事がわかればそれでよかった」

【やはりまだ我を恨んでいるか。ふふ、当然だな】

「違う!私は一度もお前を恨んでなどいない!」

【我は忘れやすい性格だがな、ヌシを片時も忘れた事はない。それはこのおかげでもある】

妖狐は、クイッと自分の衣服を掴む仕草をした。
華奢な体つきには相応しくない程の大きな衣服を、わざわざ肩の位置と腰の位置で結び、自分に合うサイズにしている。

「それは、私の……」

【唯一の記憶の繋ぎ目だ。ラウドよ、今度は一魔で我のエリアに来い。そしてそのとき、ヌシの恨みを晴らせば良い。我はヌシに殺されるために今を生きている】
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