魔界動乱期
「だ、だからさっきは魔吸収が出来なかったのか……!」

「儂はこの日のために、お主の言うことを何でも聞いた。そして儂を信頼したお主は、定期的に行うラクリマの魔力注入……いわゆる充電作業の見張りに儂を選んだ」

「貴様……」

「見張りには信頼できる強者が必要じゃからな。バジリスクやギガンテスは戦いに出とったからのう」

ズブッ!

「うっ……」

「儂もだいぶ多くの魔吸収をしたのでな。立ってるのもやっとのお主をやるのは容易い。お主を吸収してみたいが、いきなりの巨大魔力の吸収はリスクが高いからやめておこう」

研ぎ澄まされた水刀が、ディナスの体を貫いた。
水の噴射力は、鉄をも貫く。
強力さを増したモルキの魔力を帯びた水は、強靭なディナスの肉体を容易く貫いた。

「モル…キ……。ちっ、これが…天罰ってやつか……」

「さらばじゃ、森の風雲児よ」

そしてゾイド派の主力が到着したとき見たものは、大量の血のりと、もぬけの殻のアジト。

「誰もいない……。この血、新しいぞ!ディナスのものだな!?ん?血が……垂れて進んでいる」

モノケロウスが血痕の進み先を歩く。
皆でその後を追っていると、やがて大きな沼地へたどり着く。

「イピリアの大沼だ。この沼の前で血痕は終わっている。……おそらく、ディナスはここに身を投げたな。死を覚ったディナスは、自分の死体を晒したくなかったんだろう」

「ウィドー、とどめをさしたのは、おそらくモルキだ」

モノケロウスにはそれがわかっていた。
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