ブラッディマリー
 




「──はい、待った」





 凍り付いたまま動けずにいた和は、いきなり降って来たその声で我にかえった。


 緊張感などなく、真面目になることさえなさそうな、飄々とした調子のその声を、和はよく知っていた。


 和が瞬きを繰り返して視界を確認すると、万里亜の頭が顎のすぐ下にある。最後に見た牙は、自分の首筋に食い込んだのだろうか。



 見ると、万里亜と自分の間にリキュールの瓶が伸びている。


 その瓶のくびれて細くなった辺りで彼女の牙が止まっていた。



 カウンターから身を乗り出して、リキュールの瓶を差し出していたのは声の主──俊輔だった。



「──万里亜ちゃん、せっかくの美人さんが台なしだ。落ち着いて、その牙をしまいなさい」


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