ブラッディマリー
 


「……惚れたか?」



 少し湿り気を帯びた俊輔の声に、和ははっと顔を上げる。


 その瞳が揺らいだのを見て、俊輔は眉根を寄せた。



「……仕方ないか。ヴァンパイアってのは、簡単に血を貰えるように、人目を引く性質と外見を備えて生まれて来るもんだからな」


「え?」


「男も女も、姿かたちのいいヤツに言い寄られて嫌な気はしないだろ? ベッドインするのも吸血するのも、相手に近付くまでの手間は俺達にとっちゃ同じだ。なら、手練手管を使わずに済む方がいいに決まってる」



 言われてみれば。



 妙な下心などなく俊輔に見とれてしまう時も、万里亜にひと目で引き付けられた時も、どこか理屈で説明出来ない魔性のようなものがそこにあったから。



 ……万里亜の兄も、危険な存在だと気付きながら、こちらが目が離せなくなる何かを携えていた。

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