ブラッディマリー
 


「……知らないよ。俺、女に惚れたことなんてないし」



 俊輔からぷいと視線をそらすと、和は壁の煉瓦を見つめた。


 すると俊輔は少し目を丸くして、カウンターの中に置いたままにしていたグラスに手を伸ばす。



「……そりゃいいや。初恋がヴァンパイアとは、お気の毒に」


「だから、そんなんじゃないって……」


「なら、極力他人に関わらないようにして来たお前が、どうしていつまでも家出娘の面倒なんて見てるんだ?」


「それは……行くところがないって言うから、ほっとけなくて」


「そうは言っても相手は未成年なんだから、警察にでも押し付けりゃいいだろ?」


「……」



 意地悪な俊輔の尋問に、和は二の句がつげず黙り込んだ。



 俊輔はグラスをカラン……と揺らし、酒と氷がぐるりと混ざり合い、滲む様子を見つめる。

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