ブラッディマリー
「……可愛いと思った瞬間、もう恋に落ちたようなもんなんだ。自分でそれに気付いたら、もう逃げられない」
「……」
逃げられない。
それは、万里亜の手を取って澄人の前から駆け出した夜、既に覚悟していた。
単純な欲望と執着の間に見え隠れする、甘やかで切ない傷みを、恋などというありふれたもの──そう呼ぶのだろうか。
恋なんてもっと浮かれたもののような気がしていたけれど、俊輔にそう言ったように、本当に知らないのだから確信など持てる筈がない。
「……俺、は──」
和がぼんやりと煉瓦を見ながら口を開き、俊輔はグラスをカウンターに置いて彼を見つめた。
「俺は……万里亜のいいようにしてやれたら……って思っただけだ」
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