ブラッディマリー
 

 もういい、と言おうとして、和は口をつぐんだ。



 聞かせろと言ったのは自分だ。


 それに、万里亜がそんな痛みをどんなふうに受け止めて来たのか──知りたかった。



「……お父さんは、お母さんに似て来るあたしを見る度、この売女って。澄人兄さんも言ってたの、覚えてる? あたしも母親と同じかって」



 和が困ったように頷くと、万里亜は皮肉っぽく笑った。



「あたしと澄人兄さんは、母親が違うの。兄さんのお母さんは早くに亡くなって、お母さんは後妻で……。10年前、あたしを連れて家を出て外の男の人と……連れ戻そうとしたお父さんから逃げる途中、お母さんと相手の人、死んじゃった」



 そこまで言った万里亜の瞳から大粒の涙が零れて、和は堪らず彼女を抱きしめた。


 その暖かな胸の中で、万里亜は続ける。



「お母さんに、男の人と逃げちゃえって、あたしが言ったの」


「……お前が?」


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