ブラッディマリー
4
戻れない闇
『こんな母親だから──あなたまで、あの女に奪られてしまったのかも知れないわね』
掠れた母親の声が、古い記憶の底から頭の内側を撫でる。
赦せないのは、夫やその愛人、息子の愚行ではないのだと、今になってそう言っていたような気がして仕方がない。
痩せた横顔が責めていたのは、母自身だったような──。
ワックスで髪を固めながら、和は薬が切れてまた膨らみ出した痛みを疎ましく思った。
雨の匂いで頭痛がして、その痛みは血生臭い光景を踏切のランプのように、脈と同じ速さで再生を繰り返す。
.