ブラッディマリー
 

「和。客の前で万里亜ちゃんとイチャつくなよ。お前ら目当ての客が減る」



 俊輔は“HEAVEN”のドアを開けて二人の顔を見るなり、そう言った。



 彼いわく、和の顔はゆるゆるになっていて、万里亜を見る瞳がとろとろになっているらしい。


 馬鹿馬鹿しい、と和が溜め息をつくと、カウンター真上の電球がちかちかと点滅し始めた。



「和、電球のストック、ロッカーになかったか?」


「え? 春にトイレに使っちゃったでしょ。俊さん『買って来る』って言ったきり」


「いけね、すっかり忘れてた……」



 眉尻を下げた俊輔は、店内をきょろきょろと見回す。



「そういや、飾り照明も年末に替えたっきり、ストックがないな……まとめて買って来るか」



 ぶつぶつと呟いて、俊輔は和と万里亜を交互に見た。

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