ブラッディマリー
 

 白城澄人。


 万里亜の兄であるその男を、冷たいと感じる理由が判った。硝子玉のように澄んだ彼の瞳に、感情の揺らぎやぬくもりが映らないからだ。



「……万里亜ならいない」


「知っている。……気配で判るさ」



 カツン、と靴を鳴らして澄人は店に足を踏み入れる。


 何気ないその動作から威圧感が伸びて来て、和の周囲に重苦しさをもたらした。



 ……こんな威圧感、政界の大物と呼ばれていたじじいに会った時も感じたことないぞ。



 和はわざと大きく息を吐き出すと、澄人を正面から見た。



「そうしてぴんぴんしているところを見ると、正気を失った万里亜をうまく手なずけたようだな」



 澄人はふ……と小さく笑う。すると和の左頬を軽く何かが掠め、背後の棚に飾られたグラスがパンと割れた。

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