ブラッディマリー
ゆらゆら目の前に揺れる、少し濁った景色は……何だろう。
揺れる暖かな液体の中にいるようだ。まるで赤ん坊の頃に戻ったみたいに。
……なんて、覚えちゃいないけど。
『……あの人にそうしろと言われて、私はそれを受け入れました』
液体の膜の外側から聞こえるのは……母さんの声、か?
『判ってる。俺もあなたを愛してるわけじゃない』
答える男の声は、どこかで聞いたことがあるような……。
『後悔していますか?』
『いや、義務だと思ってるから……』
『……私は……悲しいですよ。……こんな形でないと叶わないなんて……』
何のことだ……?
『それでもあなたは俺のところに来た。判らないな。俺には』
『あなたも誰かを愛したら……きっと判りますよ』
悲しそうに笑った母さんは、それでも穏やかだった。
母さん、あなたに何があったんだ……?
.